業界社史の研究 8. 食品業界編

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伝わってくる“らしさ”の表現

食品産業は我々の暮らしに密着しているせいで、食が人類の歴史に果たしてきた役割や、自社がその流れの最先端であることを強くアピールする傾向がある。

巻頭の口絵で「食足世平」「美健賢食」「食創為世」「集智成大」と経営哲学を披瀝する日清食品の40年史『食創為世』には、新産業創始者としての自負が溢れている。同社は99年11月、大阪府池田市に「インスタントラーメン発明記念館」を建設、展示ホールや体験コーナーを設け入場無料で一般に開放している。

史上初めて「うまみ」を事業化した味の素の『80年史』では「科学技術と人間」(東京大学名誉教授による寄稿)、「うま味の文化」(国立民族学博物館教授による寄稿)など、科学的な蘊蓄(うんちく)が楽しい。タレントとの対談も、味があって目立っている。同社では、60周年記念事業の一環として刊行された社史の普及版として新書判の『未踏の世界への挑戦―味の素小史』を発行、市販して社会への還元もされている。

CMで商品イメージの浸透を図る菓子メーカーでは、商品の変遷とCMの移り変わりを組み合わせて会社の歴史を描いていることが多い。本文そのものが製品の変遷を軸に記述されていたり、歴代のCMをカラー写真で掲載してあり、見るだけで歴史が楽しく伝わってくる(『明星食品30年史』、『江崎グリコ70年史』)。

変わったところで、小豆を使う和菓子を製造・販売する井村屋の『創業100周年記念誌』では、見返しに小豆の皮を漉きこんだ用紙を使っている。

食品業界の社史は全体に派手な印象があるが、地味さで異彩をはなつのが『雪印乳業社史 第6巻』。同社ではほぼ10年ごとに1巻を刊行しているが、第6巻では商品・CMの記録も巻末に掲載してあるものの表組のみにとどめ、全体として会社組織の動き中心に真正面から社史を描き出そうと努力している。消費者向け商品のメーカーとしては少数派といえよう。ただ、同社では白黒、カラー合わせて約1,100点の写真を使った『写真で見る雪印乳業五十年』というものも発行されている。

 

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