何のため、誰のための社史かを考え、読みやすい文庫本スタイルに

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『パインアメ物語』(A6判 228頁、平成13年2月発行)のケース

企画で勝負

読まれるものを!の社長方針

同社は創業40年目ころから50周年を意識し、50周年を迎えるに際しては記念行事の一環として社史の発行を考えておられた。そして3年前、社長から総務課に対して「この機会に、会社の歴史をなんらかの形でまとめておきたい」という提案があった。

編集を担当することになった総務課の人が社長に企画の意図を確かめると、社長の指示は「他社の社史のように、いろんなデータや出来事をベースにして記述したものは、うちの社風には合わないからやめておこう。それよりも親しみやすく、読みやすく、パインらしいものにしたい」ということだった。

同社では10年ほど前からこのことを予測して、社内報に「道」と名付けたコラムを設けて創業以来の出来事やエピソード、創業者の人となりを物語風にして掲載されていた。それを契機にして担当者は創業当時のこと、パインアメ誕生の経緯などを調べはじめて資料(文書、写真等)を収集していたが、あることに気付いていた。

それは、決算書を除いて書類や文書類はあまり残っていないということだった。余分なものは残さないで捨ててしまう、つまりムダなものは残さないというのも社風のひとつだったのである。さらには、キャンディーメーカーの社員として複雑な流通網のことを知っているだけに、あまり細かな数字を公表することに疑問に感じていたので、社長の指示はよく理解できた。

そのうえで、担当者が「パインの社史はこうすればいいのではないか」という考えを持って、それとなく社長の意向を確認すると「枕になったり、飾りものになるようなものは必要ない。ええかっこうするよりも、社員やお得意さん、お取引先の人に読まれることがいちばん大事だ。例えば社員であれば、理屈抜きに会社のルーツを知ってもらい、アメづくりの精神を知ってほしい。そのうえで、これから先自分たちは何をしなければいけないか、一人ひとりに考えてもらえたらそれにこしたことはない」ということだった。

文庫本スタイルに決定

担当者はそのような会社の意向を踏まえて、どうしたらいいだろうかと素直に出版社に相談した。出版社の編集者が目的、資料の状況などを十分に吟味して出したのが「文庫本スタイルの読み物」という案だった。
その理由としてあげられたのは、

      1.創業当時のことはすでに社内報に掲載されて道がついている
      2.資料の有無にこだわらなくていい。もし資料が乏しかったりなかったりした時は、短縮したり省略すればいい
      3.内容の正確さに疑問が生じたときはすぐに明らかにしておくその場で解明しないと結局はうやむやになったり、忘れてしまいやすい。
      4.肩のこらない平易な文章でもOK

などで、極端な言い方をすれば通勤途中でも読める…ということだった。
それらのことをきちんと整理して担当者が社長に企画書を出すと、社長はひと言「いいんじゃないか。あとは、歴史の記録を残すよりも会社のことを知ってもらい、感じてもらうのが目的だということを忘れないで進めてくれ」とおっしゃったそうである。

そこで担当者の腹は決まった。そして、編集者やライターなど本づくりに携わる人にじっくりと時間をかけて会社のことを説明し、工場も見てもらった。文章や装丁といった本づくりのことはプロに任せ、自分は担当者として内容のチェックに徹してから、編集はスムーズに進んだという。同社では、昭和40年代から50年代にかけて組合結成等が起き、記述の難しい時期もあったが「ない資料にはこだわらない」という姿勢で乗り切り、予定通りに発行することができた。

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