発行の「目的」をはっきりさせれば多くのことが見えてくる

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社史や記念誌を作ろうとするとき、それぞれの企業や組合、団体等には「何のために作るのか?」という目的があるはずです。

創業者(設立者)の功績を讃えよう、企業発展の歴史をまとめておこう、あるいは会社の変遷を整理して分かりやすくしておこう…など、その目的は発行する側によってさまざまでしょう。

ところが、そのような目的がはっきりしていないと、編集の途中で企画そのものがあいまいになり、方向性がブレてしまう恐れがあります。

社史や記念誌のように、貴重な時間と予算、そしてマンパワーを使って制作する場合、「ゴールはここだ!」というはっきりした目的意識を持つことが大切です。今回は、そのゴール=目的について考えてみます。

1.会社にとって大事なこととは何か?―資料の整理・保存―

企業や団体において、すべての資料を整理・保管することは不可能に近いことです。そこで求められることは「後世にとっては何が重要か」という判断基準です。つまり、会社にとって必ず残さなければならない記録とは何か? ということの決定です。社史や記念誌の制作を契機に決められた、保存資料の選択基準 は、それ以降の重要な物差しとなります。したがって、社内において十分に討議する必要があります。

京都の生糸関係の組合では、「50年史」編纂に当たって、衰退する業界のことを考え、生糸に関する情報の集大成を試みられました。そこでは、人類と生糸 との出会い、製糸業の発達過程、明治以降の絹輸出と日本の産業との関係、現在の状況等を詳説し、同時に分冊で資料集も編纂されました。

また、ある民放局では人気の長寿番組の「40年の軌跡」をまとめ、番組の始まりや移りゆく時代との関わり、出演者のエピソードなどを公開されました。同 時に「40年全記録」として放映開始からの脚本、演出、出演のスタッフ名、視聴率などのデータも網羅されています。

2.会社の歴史から、何を学ぶか?―温故知新のために―

ある企業が、創業されてから現在までの間には、山もあれば谷もあったでしょう。場合によって企業存亡の重大な危機があったかもしれません。しかし、現在まで存続しているということは、社会に必要とされた理由があるはずです。

そこには創業者の思い、その時々の経営者の決断、あるいは問題解決に心血を注いだ社員の努力など、理屈を超越した人間の能力や意思の力が働いています。そのような精神を思い起こし、呼び戻して今の経営に生かすことも、企業にとっては重要なことです。

“医は仁術”を実践されているある病院の記念誌では、病院設立を決意した医師の情熱、その病院設立に協力した地域住民の期待など病院設立に関わった人々 の心情や現在に至るまでの病院運営の苦労等が記述されています。同時に、いまもそこにお世話になっている患者さんたちの病院に対する信頼感が淡々と綴られ ています。その記念誌を一読すると、「この病院が、なぜここにあるのか」ということがよく理解できます。

3.会社における“周年”の意味とは?―社員教育の手助け―

社史や記念誌が発行されるのは、企業や団体が創業や設立の節目を迎えられたときがほとんどです。

社歴の古い人にとって、創業○周年というのはそれなりに意義のあることでしょうが、在職期間の短い社員にとってはピンとこないこともあります。

すべての従業員に、会社の歴史や過去の重要なできごとを正しく理解してもらうために「社史」というのは恰好の教科書です。

○周年という節目をきっかけに、会社に対する関心を高め、正確な知識を持ってもらうことは十分に意義のあることです。それが従業員の家族やお取引先等にまで広がれば、言うことはありません。

そのためには、社史や記念誌の発行が決まったときから、編集に携わる人たちが力を合わせて、また広報や総務、組合など他の部門とも協力してPRに力を注ぐようにしたいものです。

また、節目ということでは○周年という以外に社長の交代、合併やCIの導入による社名の変更、上場達成など、その企業によってさまざまな事由が考えられます。

関連会社を含めて数度の合併・社名変更を経験されたある企業は、その経緯を業務内容の変遷とからめて詳しく説明し、現在までの歴史をまとめられました。そのため、異なった内容の業務をしている社員からは、会社の全体像がよく分かったと好評だったそうです。

4.周囲の関係者に感謝の気持ちを表す

どの企業にとっても、自社がどのような考え方で経営し、将来どのような方向をめざしているのか、どのように社会に貢献しているのかということを正しく理解してもらうことは周囲からの信頼感を高めるために不可欠です。

同時に、企業として存続させていただいているという感謝の気持ちを持ち続けることも必要です。

ところで、企業は生き物…と言われますが、創業以来その中身をまったく変えていない企業はまれといっていいでしょう。製品開発の結果、あるいは企業生き 残りのために時代とともに変遷した会社の現況を、たんに従業員だけでなくその家族や取引先の人々に正しく理解してもらい、その方たちに感謝の気持ちを表す ことは、その企業の今後にとって大きな意味を持ちます。

戦後創業のあるアパレルメーカーの労組では、従業員の大半を占める若手社員を意識して、マンガによる記念誌を出版されました。それを読むと、なぜ組合が 必要なのか、組合員にとってどのようなメリットがあるかということが誰にでも理解できるように説明されており、組合幹部と一般組合員との相互信頼の強さが 感じられます。

創業55周年を迎えたある計測器メーカーでは、創業社長の功績を讃えるとともに、後を引き継いだ現社長の決断がいかに社業の発展に貢献したかという視点 で会社の歴史を捉えています。その方針に従って製品開発に意を注ぎ営業努力を重ねた社員たちの苦労が語られているのは当然です。

さらには、創業期のモノ不足のときに炊き出しなどで残業に励む若い従業員の面倒をみた社長夫人のことなども盛り込まれており、家族的雰囲気を特徴とするその会社の原点を知ることができます。

また、創業社長の強力なリーダーシップで大きく成長したスーパーでは、その社長の引退の花道を飾る意味合いを込めて、社長の人となりと企業発展の歴史を重ね合わせて記念誌を編集されました。

5.会社の存在をアピールする―企業広報の役目―

どのような企業も、社会との関わりなくして存在することはできません。したがって、会社の存在理由を従業員はもちろん多くの関係者、地域社会に知ってもら うことは重要なことです。そういう観点から考えても、社史や記念誌というのはたっぷりと紙面を割いて、あるできごとを詳しく説明することができますから、 通常の広報活動とは違う貴重な役割を果たすことができます。

ある大手学習塾では、教育内容の充実振りを説明するとともに、多彩な講師陣を紹介することに多くの紙面を割いています。それによって業界における人脈の豊富さや、それに伴うその塾に学ぶ生徒たちの将来の可能性の豊かさ、フレキシビリティを説いています。

以上のように、「何のために社史・記念誌を発行するのか」という目的意識が明確であれば、どのような視点で編集すればいいか、どのような内容が必要か、何が大事かということは自ずと見えてきます。つまり、発行の意図を十分に満たす社史や記念誌を制作できるというわけです。

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