もしも、社史の担当者になったら…

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ある日、「社史を作るから、君が実務を担当しなさい」と言われたあなた。たぶん、「自分はそんな経験はないし文章も下手だ、それに印刷とか本づくりのことなんかもまったく知らない」と悩まれるでしょう。しかし、そんな心配はご無用です。担当者になったからといって、すべての作業を一人でやるわけではありません。これまで、ご自身でもしくは部内で協力して、さまざまな業務をこなしてこられたのと同じように、「社史制作」をプロデュースすればいいのです。

担当者に指名されたら…

社史編纂が決まったときの指示は「いつまでに、どのようなものを作れ」という抽象的なものが多いと思われま す。そのため、担当者の仕事の第一歩は社内のいろいろな意見調整をしながら社史の具体的な姿を浮かび上がらせることから始まります。すなわち

      ・発行目的を明確にして、編集のコンセプトを決める
      ・予算や発行部数、発行日、配布先などを確定する
      ・他社の社史を参考にしながら、体裁のイメージを固める

といったようなことを、社史づくりの責任者になる人と相談しながら、徐々に固めていくことになります。

それと並行して、社内の編集委員会、編集事務局などの組織づくりも必要となります。とくに、編集委員会というのは、全体の方向付けやさまざまな指示、決裁のためには不可欠なものです。逆にいえば、担当者が責任を一人でかぶらなくていいようにする組織でもあります。つまり、編集委員長名を上手に利用して社内外に各種の指示・命令・依頼を出せるようになるわけです。

例えば社内報による告知、PRポスターの掲示、職制による取材や資料提供等への協力依頼などです。

1.予算とスケジュールの管理

社史の制作が決まると、「これくらいの予算で、いつまでに作れ」というガイドラインが示されます。

そこで、その予算とスケジュールであればどのような内容、体裁のものが制作可能か策定することが担当者の役目となります。この場合、一人で決める ことは不可能ですから、専門の出版社と相談しながら見積もり、という手順をふみ、編集委員会の決裁を仰ぎながら段階的に固めていくことになります。

予算は、編集内容と本の体裁に密接に関係しますから、最初から企画の概要を固めておく必要があります。例えば、途中で100 頁の予定を200 頁にしたい、カラー写真100 点の予定を200点にしたい、並製本をハードカバーにしたいといっても、後になるほど予算も固まり、変更は困難となります。あるいは、企画段階ではなかった著名人との対談を盛り込みたい、有名作家の文章がほしいといってもギャラの関係で実現不可能なこともあります。さらには、急に取材先を追加すれば旅費等の経費増加をどうするかといったような問題も発生します。

つまり、したいこととできることは別だということをしっかりと認識しておくことが重要だということです。

スケジュール管理については、一般的には資料収集に予想外に手間取り、遅れるケースがありますので、いつまでに、どのようなものを集めるかというしっかりした目標を立てましょう。また、最初からしっかりした日程表を作成して、各段階の作業をなしくずしにずらさないことがかんじんです。

2.資料収集の手配

担当者の仕事として、資料収集はいちばん骨のおれる作業のひとつです。いくら編集委員長名で社内に通達を出しても、社史に対する現場の人の関心が薄ければなんの反応もないでしょう。

そこで大事になるのは、社史づくりの意義を事前に十分に告知する、人脈を生かして社内の協力者づくりをしておく、あるいは会社の生き字引と言われるような人とのコネを作っておく、などの準備作業をしておくことです。さらに、会社の歴史に詳しいOB とのパイプを築ければ万全でしょう。

そのうえで、抽象的に「何か資料はありませんか」と聞くのではなく、「○○に関する記録はありますか」「○○の写真がほしい」といったように、具体的な目的を言って資料収集の手配をすれば、依頼される方もはっきりとした返事ができます。YES ならそれでよし、NO であっても次の作戦をたてることができるというものです。

3.取材の手配

取材の手配は、基本的には資料収集と共通する部分がたくさんあります。というのは、まず相手の方を「協力してやろう」という気持ちにさせることが肝心だからです。それには、いくら職制で取材に応じろ!と言っても、気持ちのこもらない応対ではろくな話が聞けるはずがありません。また、下手な考え休むに似たりで、妙な作戦や駆け引きも無用です。

人は情で動きますから、事前の手続きを誠意を持っておこなえば、その後は比較的スムーズに進みます。

先方に取材の趣旨を上手く伝えておくだけでも、取材に応じられる方のほとんどは、その人なりに一生懸命に準備をされます。手持ちの資料をひもとき、記憶を整理し、分からないことは知っているであろう人に聞かれるはずです。担当者のあなたは、忙しい時間を割いて応対してくださった相手の方に、失礼のないよう、好意に感謝するという気持ちを持って接すればOK です。さらに、事後のフォローもすれば、完璧です。

4.社外スタッフのコントロール

社史の編集には、実にさまざまな細かい作業が伴います。コンセプトづくりから始まって、日程表づくり、資料収集の方法、集まった資料の整理、取材や撮影、原稿作成や校正作業など、すべての作業に関わるのは出版社の編集者です。

編集者も人間ですから、一生懸命に社史づくりに取り組んでいる人をみれば、「自分もこの人のために頑張ろう」という気持ちになります。担当者の方が使命感に燃えているのに、「これは仕事だから、適当にやればいいさ」という編集者はまずいません。

結局、ビジネスライクに管理しようということではなく「一緒に当社のいい社史を作りましょう」という気持ちがあれば、編集担当者は理屈抜き、商売抜きで協力してくれるはずです。そのためには、いい人間関係、信頼関係を築くことです。

5.原稿の校正

原稿の校正では、記述に対する意見の相違が必ずと言っていいほど起こります。とくに事実関係の正確さ、固有名詞や日時の確定など担当者としては判断に困ることが多々あります。

そういった場合は、会社としてその事実をどのように評価し、日時を確定させるかを決定する必要が生じます。結局、誰かが結論を下さなければいけないわけですが、その手伝いをサポートするのも担当者の仕事です。「この記録ではこうなっています」「誰々はこう言っています」という材料を提出して決定を待つことになります。

その他の校正に関しては、関係部署の人の協力が必要になりますが、ここでも社内の協力者の存在が重要な意味を持つことになります。

兼任で社史は作れるか

社史編纂室を独立した組織として設けられる大企業は別として、ほとんどの企業では「社史編集」は担当者の兼任作業です。

しかし、それでも十分に立派な社史を作ることは可能です。そのためには、社内の協力者づくりや社外スタッフの上手な活用が欠かせません。

担当者に求められる資質

内村鑑三はその著『代表的日本人』で、二宮尊徳について「術策と政略とは彼には皆無であった。彼の簡単な信仰は此であった。即ち『至し誠せいの感ずる所、天地も之これが為に動く』。」と記しています。

つまり、会社のためにいい社史を作りたいという強い意思があれば、必ず読者の心を打つ立派な社史はできるということです。担当者がたんなる仕事として投げやりに取り組んでいるようでは、誰の協力も得られないということは容易に想像がつくと思います。

逆に、これまでお世話になった会社のために社史づくりに一生懸命に取り組もう、愛情を持って後輩のために会社の歴史を残そうという意気込みで社史づくりに励む担当者を、周囲の人は無視できないはずです。

何かをするときに、何が大事か。それは目的を成し遂げたいという願望と熱意です。社史担当者として大事なのは、会社への愛情であり、同じ仕事をしてきた仲間たちへの感謝なのです。その気持ちがあれば誰もが社史担当者の素質を備えていると言えましょう。

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