社史に関する著作権Q&A

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写真や文章の転載には許可が必要?CMの写真を掲載するとき、タレントの肖像権は?会社案内やホームページの写真の転用は可能?社史やPR出版のご担当者が知っていると役に立つ著作権をはじめとする知的所有権のあれこれを、知的所有権の専門家・虎ノ門総合法律事務所の北村行夫先生がQ&A形式でご紹介します。

Part1.著作権法とはどんな法律か
Q-1 資料や写真を多用することになる社史の制作では、著作権など知的財産権に注意しなければならないと聞いています。 どのような知的財産権に注意すればよいのでしょうか?
A-1 最も注意しなければならないのは、やはり著作権です。

知的財産権の主なものとしては、著作権のほかに、特許権、実用新案権、意匠権、商標権など一連の工業所有権があります。 このうち特許権、実用新案権が社史制作にあたって問題になる可能性は、一般的に見てまずありません。 商標と意匠は、社史の中にしばしば素材として登場してくるので、一見すると可能性がありそうです。しかし、商標権や意匠権の侵害にあたるのは、商品やサービスの提供に際して、その商標や意匠を使う(それぞれの法律にいう「使用」や「実施」に該当する)場合ですから、社史への掲載がこれに該当することはほとんどないといってよいでしょう。 [ですから、社史制作に際して最も注意すべき知的財産権は、やはり「著作権」ということになります。

Q-2 著作権法とは、どんな法律ですか? 違反すると、どうなるのですか?
A-2 著作権法は、創作された表現を保護する法律です。

人は自分の「思想や感情」を伝達する際に、それをより適格(効果的)に伝えようとして、さまざまな工夫をこらして表現します。そのような「思想や感情の伝達のための表現における自分らしさ(個性)の工夫」を、著作権法では「創作的表現」と呼び、これを「著作物」として保護しています。 わかりやすい例としては小説や論文、絵画、写真、映画などがこれに当たりますが、社史の記述の出典となる参考資料や掲載写真の中にも、この「創作的表現」に該当するものがあり得ますので、注意しなければなりません。 この著作権法でいう「保護」というのは、そうした「創作的表現」に相当する著作物に著作権という権利を認め、その権利を有する人(もしくは会社、団体)=著作権者の許しを得なければ、他人がその著作物を利用することができないとすることです。 ですから、著作者の許可なくして著作物を使用すると、著作権を侵害したことになり、民事上、刑事上の制裁が課せられます。民事上の制裁は複製等の差止・廃棄等、損害の賠償(慰謝料も)、謝罪広告の掲載です。また、刑事上の制裁は罰金又は懲役で、その金額や期間はどのような違反をしたかによって違いますが、一例を挙げると、複製権侵害の場合で法定刑は3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっています。

Q-3 著者がすでに故人である場合でも、著作権に配慮する必要はありますか?
A-3 著者の死後も著作権は一定期間保護されます。

著作権には法律で定められた保護期間があり、原則として、著作者の死後50年間とされています。 ただし、これには多くの例外があります。公表のときを基準に50年とするものや、第二次大戦の遺物として、大戦中の連合国民の著作物に関しては本来の50年のほかに約11年加算して保護しなければならないものがあります。 また、映画に関しては、すでに70年に延びており、他の権利についても改正し、保護期間を延長する可能性がありますので、 一律に死後50年を超えていれば大丈夫、と判断するのは危険です。

Part2.社史の素材で著作権に注意すべきものは何か
Q-4 社史制作に際し素材として使われる資料・参考図書などで、「著作物」である可能性があるものには、どのようなものがあるのでしょうか?
A-4 かなり広範にあります。またその際には、社外文書だけでなく、会社案内など自社所有の素材にも注意が必要です。

社史制作で使われる資料・参考図書などを、著作権との関係で態様別に整理すると、以下のようになります。

[1]文字ないし図系統からなる文書資料類(電子データ含む)

      1.社内文書類(取締役会議事録、稟議書、設計図書、社内規程など)
      2.外注して作らせた自社用の印刷物(会社案内、事業報告書、入社案内、カタログ、ポスター、チラシ、社内報など)
      3.社外文書類(新聞記事、業界誌記事、市販年表、市販単行本、業界団体発行図書、他社社史等)

[2]文書以外の写真、音声等の資料類(電子データを含む)

      a.写真(個人所有のほか上記 1.〜 3. に属するもの)
      b.音声・動画(個人所有のほか上記分類 1 〜 3. に属するもの)

このうち社外の文書である 3. は当然注意すべきものです。

1. 2. は自社所有の素材ですから著作権があると考えがちですが、一概にそう判断するのは危険です。それは、著作権法が、「著作権は、著作物をつくった人に発生する」と定めているからです。そのため、契約書で著作権が誰に帰属するかを明確にしていないケースでは、「当事者の意思」なるものを巡って争いが起きる場合が多々あります。
つまり、社外の文書や印刷物から借りたり、引用・転用したりする場合だけでなく、自社所有の文書や印刷物の場合にも、著作権が常に会社にあるとは限らないことにご注意ください。

[2] の写真、音声等でも、これは変わりません。自社使用のために撮影させた写真やビデオなどについても同様の注意を怠らないでください。

Q-5 自社所有の素材でも、社史への転用が著作権に抵触するおそれがあるのは、どういう場合ですか?
A-5 契約に際し著作権の譲渡を受けていない場合がそれに当たります。

上記A-4の分類に沿って説明しますと、1. の例の中で著作権の譲渡を受けていないことが問題になるケースが多いのは設計図書です。設計図書の著作権は、設計者に留められるのが通常だからです。他の例のものは、会社に著作権があるか、少なくとも社史への掲載につき著作権を他から主張されて素材として利用できなくなることは通常はないでしょう。

2. は、事業報告書以外は通常、会社には著作権がありません。著作権の譲渡を受けているとはいえないからです。
さりとて、広告物等を作成するたびに、著作権譲渡を合意するのも手続きが煩瑣ですし、そもそも合意させようとしてもクリエーターは必ずしも同意しません。特に著名な、あるいは腕の良いクリエーターほどその傾向があります。
そこで、制作発注に際しては、「広告以外に社史その他会社の営業活動を告知する際には本件著作物を複製その他利用することができる。」旨の了解を包括的に取りつけておくことが考えられます。

つまり、社用文書(社内用、自社用の文書)については、日頃からの著作権管理が問われるということです。
社用で作成する社員作成の文書類は、著作権法第15条1項により、会社の指示命令によって、従業者が職務上作成するもので、会社の名義で公表されるものは、「作成時の契約、勤務規則に別段の定めがない」限り、法人等が著作者となると規定されていることから、最初から会社のものとなるのが通常です。

Part3.他の本を利用するときの注意点とは
Q-6 「利用しようとする著作権は何か」を確認する必要があるようですが、著作権は何種類もあるのですか?
A-6 著作者の権利には、10の著作権と3つの著作者人格権とがあります。

著作権法で言う著作物の利用とは、複製権など10の権利のことです。このうち、社史制作で問題となるのは、主として複製権、譲渡権、翻案権でしょう。社史の全部または一部をWEB上で公開することとなると、送信可能化権も見落とすことはできません。ちなみに、法の定める著作権は、この他に上映権、公衆送信権(上記送信可能化権以外の)、口述権、展示権、頒布権、貸与権等です。

また、WEBやCD-ROMを用いた社史制作では、音源の利用があるかもしれません。この場合には、実演家の権利やレコード製作者の権利のような著作隣接権についても処理しなければなりません。

このほかに著作者には、著作者人格権という権利があり、これにも3種類の権利があります。編集に関する紛争では、しばしば問題となっていますので、注意してください。特に注意すべきは自分の著作物を公表するときに、「著作者名を表示するかしないか、するとすれば、実名か変名かを決めることができる」権利である氏名表示権と、「自分の著作物の内容または題名を自分の意に反して勝手に改変されない権利」である同一性保持権でしょう。詳しくは後の設問を参照してください。

Q-7 他人の著作物であるとわかったら、適法に使うにはどういう方法がありますか?
A-7 譲渡を受ける場合と、使用許可を受ける場合があります。

大きく分けて、譲渡を受ける場合と、使用許可を受ける場合と、A-4で述べた著作権の諸規定に基づいて無断利用できる場合と3種類あります。

著作権譲渡を受けるといっても、契約書なしに、しかも明示の譲渡合意なしに著作権譲渡を受けていると思ってはなりません。この誤解に基づくトラブルは絶えません。

また、かつて使用許諾を得ていたからといって、それを当然に社史に転用して良いとは限りません。目的があって制作されたものは、その目的限りでの著作物利用許諾を得ているにすぎないと解釈される余地があるからです。社史への利用を許容していると解釈し得ない場合には、改めての許諾が必要となります。

無断利用できるケースとしては、前述のように引用と転載(官公庁統計資料等)、公開された政治上の演説等の利用などがあります。

Q-8 許諾を得るときには、どのような点に気をつければよいですか?
A-8 真の権利者から許諾を得ることはもちろん、許諾の範囲について漏れのないようにすることです。

真の権利者が誰かに関しては、出版社等のメディアを権利者と思いこんで処理するケースがしばしば見られますが、多くの場合は間違いです。

許諾の範囲については、複製権のほか、平成11年の改正による譲渡権を含むのを忘れてはなりません。また、WEB上に掲載する可能性があるなら、送信可能化権が必要となる場合もあることについてはA-6に述べたとおりです。

Part4.著作権者が誰なのか迷うケース
Q-9 ある雑誌に、当社のサービスを高く評価した評論家の談話が載っていたのですが、これを転載するには、評論家と雑誌社と両方の許可が必要ですか?
A-9 評論家の許可は必要ですが、通常は、出版社の許可は不要です。

著作権の許諾の相手は、著作権者です。日本では著作者は、通常、著作権を譲渡していません。とりわけ本件のような雑誌への掲載の場合に、いちいち権利を譲渡することは通常考えられません。

著作者と雑誌社との掲載に関する通常の合意は、当該特定の掲載誌への一回限りの掲載許諾です。このことは新聞などにおいても同様です。

ただし、その評論家の連絡先等の情報を雑誌社経由で入手することが多いのはまた別のことです。

Q-10 社員に社史の原稿の一部を制作させたときは、社員に著作権が発生するのでしょうか?
A-10 著作権は法人に発生します。

「制作させた」原稿であるときは、会社が著作権者となる場合があり、その場合には、社員は著作者ではありません。このようなものを職務著作あるいは法人著作といいます(著作権法15条)。

どのような場合かというと、「法人その他の使用者」が「その発意」に基づき、「その法人等の職務に従事する者」に対し著作物の制作を命じ、それによって著作物が作成された場合です。

制作せよとの指示の場合に、その職務従事者に対して、法人や法人の他の従事者が、詳細な指示や協力をする必要は全くありません。指示を受けた社員固有の創意工夫の表現であっても法人等の生み出した著作物ということになり、権利も初めから法人等に発生します。

Q-11 著者が不明な著作物についてはどのようにすれば良いでしょうか?
A-11 「裁定による利用」という制度を利用することになります。

許諾を取りたくても許諾が取れないという状態を法的に放置すると無許諾利用を助長することにもなりかねない一方、著作者の意思に従うという著作権法の原則をおろそかにできないということで、これについて、著作権法は、67条以下に定めを置いています。したがってそれに従うということになります。すなわち、「裁定による利用」という制度です。

裁定手続きに入る要件は、利用の対象である著作物が「公表された著作物または(少なくとも)相当期間公衆に提供されもしくは提示されている著作物」であることです。著作者の意思による公表という厳格な公表権保護をやや緩和し、「すでに事実上の公表状態にあるもの」までが対象になっています。利用希望者側の申し立て前の行為としては「相当の努力を払ってもその著作権者と連絡が取れない」ことです。これについては後で述べます。
申し立ての相手は、文化庁長官です。

利用許可の裁定がでたときは、所定の補償金を供託して、裁定の定めた利用方法に従って利用することができます。「相当の努力を払ってもその著作権者と連絡が取れない」とは、たんに連絡に手間がかかるとかではこれに該当しません。連絡先不明の場合には、具体的には、全国紙に3回以上広告を出すなどが要求されています。

Part5.「引用」と「著作権侵害」の線引きはどこにあるか
Q-12 一部を「引用」するだけなら著作権侵害にならないと聞きましたが、法律で「引用」と認められるのはどの範囲までですか?
A-12 引用の成否は量では判断できません。

ご質問者がどこかからお聞きになられた「一部なら良いが、全部はだめ」という意見は、引用に関してしばしば見受けられます。

しかしそれは俗説です。全部使っても引用になるときもあるし、一部でも引用にならない場合がある、というのが正しいのです。全部使っても引用に当たるという身近な例は、俳句の引用の場合です。この場合には、全部使うのが通常でしょう。このように引用の成否を量で判断することはできません。

引用とは、一言で言えば、他人の著作物を学術や批評などのために第三者に提示することが合理的と認められるような場合に初めて適法となります。これだけではあまりにも抽象的なので、判例は、批評や研究等のためになされる自分の著作物が主で、他人の著作物をそのような目的の限度で従として使用する(主従の原則)、他人の著作物を自分の著作物の中で自分の著作物と明らかに別のものとして利用すること(明瞭区分の原則)を最小限守るべしと要求しています。

Q-13 出所の明示も必要だと聞いたことがありますが、どういうことですか。
A-13 引用の際には「著者名」や「書籍名」の出所明示が必要です。

出所の明示とは、他人の著作物が誰の著作物なのか、出典はどこかなどを引用の際に付記することを言います。

引用における出所明示は、最低限「著者名」、「書籍からであれば書籍名」が必要です。また、その場合、出版社名やページを示すのも通常でしょう。そして学術的な論文等の引用の場合には、版についても言及すべきでしょう。

Q-14 他の出版物に掲載されていた年表を引用利用する場合は、許諾が必要でしょうか?
A-14 特定の項目だけの複製なら、通常は無断で利用できます。

年表の全部または或る時代を丸ごと複製する場合は、編集著作物の複製になりますから、許諾が必要です。
しかし、特定の項目だけの複製なら、通常は無断で利用できます。なぜなら、編集著作物の利用ではなく、個々の素材として項目の著作物性の問題だからです。

そして、それらの項目の表現には、事実の記載はあっても著作物性がないのが通常です。例えば、岩波の世界史年表365ページ、1979年1月22日の項の、「(加)新民主党の前マニトバ州首相シュライアーが総督に任命さる。」等の表現は、著作物性はありません。学術系の年表の場合、通常このような表現です。

しかし、個性的な表現をとっているような特殊な年表であれば別ですので、前記の例に類しない場合には、表現の創作性について吟味しないといけない場合もあることに留意すべきです。

問題は、必要な数項目を抜き出して使う場合ですが、こうした場合には、編集著作物の複製にはあたりません。編集著作物の有する素材の選択または配列の創作性を利用していないからです。

Part6.HPへの転載を含む二次使用に許諾は必要か
Q-15 会社案内に使用する時に、許諾を得たりして使用した写真(新聞社のフォトサービスで購入した報道写真、メーカーから借りた自社製品を使った完成品の姿など)を、社史に流用する時にも、新たな料金や許諾が必要でしょうか?
A-15 目的外利用には許諾が必要です。

なぜなら、許諾というのは、通常は、ある目的を定めて許諾の申し込みをしているはずだからです。このような申し込みに対する許諾は、許諾目的に限定された効果しかありません。目的外利用には、改めて許諾が必要になり、その結果、場合によっては料金が発生することになります。

Q-16 会社案内に使用する時に写真家に撮影させた写真を、社史に流用する時にも、新たな許諾や料金が必要でしょうか?
A-16 写真家に依頼した写真を流用する場合は、発注時における工夫で対処できます。

本来は許諾が必要です。例えば、理由はQ15の回答と同じです。

ただ、こちらの場合は、他人の有する著作権の利用許諾を得るQ15の場合と異なり、依頼をして撮影(著作行為)をしてもらうのですから、発注の際の依頼の仕方を工夫することにより、利用目的を会社案内に限定しないで、社史や営業用カタログを始め、その他の考え得る利用にも幅広く利用できるよう許諾を得る形で依頼するという方法がありえます。すなわち発注における工夫が必要となるところです。

Q-17 書籍(印刷物)として制作した社史を、当社のサイトに掲載することにしたのですが、社史の中に使われた著作物の中に会社以外の著作物があるとき、何か注意すべきことがありますか?
A-17 ここでも目的外利用の許諾が必要となります。

この場合は、社史をサイトの社史以外のページに利用するのであれば、その事自体が目的外利用になるおそれがあります。

社史をサイト化するにすぎない場合は、目的外利用ではありませんが、元々社史を作る際に許諾を得た内容は印刷物に複製して単行本を作ることについてのものですから、この権利の中にはサイト化することは含まれていません。

いわゆるサイト化とは、法律的には、「自動公衆送信装置の中に蓄積して送信可能化すること」なので、これは複製権とは別の権利すなわち送信可能化権の許諾が必要です。したがって、サイト化に先立ち、この許諾を得る必要があります。

しかしこの点も、昨今のようにIRなどの観点から、会社情報のサイト利用が常態化している以上は、予め社史の利用方法(権利の種類)を複製権のみならず、送信可能化権に広げておくことで解決しておくべきです。

Part7.意外に見落としやすい「著作者人格権」とは
Q-18 外部のライターに書いてもらった原稿を本人名義で社史に載せない場合でも、原稿の修正について本人の了解が必要でしょうか?
A-18 本人の了解が必要です。

ライターは、当該原稿の著作者です。著作者の創作したものは、著作者の人格の発露です。本人以外の者が、著作者の意思に反して著作物に勝手な変更を加えることはできないからです。この権利の存在は、著作者の名前が表記される場合かどうかには左右されません。

著作者が著作物について持つ、このような権利を同一性保持権といいます。講学上、これを著作者人格権と呼んでいます。

この権利は、著作物の内容が、著作者の人格と結びついていることに着目した権利ですので、仮に複製権のような著作権が譲渡されても他人に移転せず、元の著作者本人の元にとどまります。このような性質を一身専属性と呼んでいます。

Q-19 その「著作者人格権」とはどういう権利ですか?
A-19 著作者人格権は、三種類あります。公表権、氏名表示権、同一性保持権です。

公表権とは、未公表の著作物を、公表するかどうか、公表するとしたらいつ、どんな方法で公表するかということを著作者自身が決めることができる権利のことです。

氏名表示権とは、著作物の原作品を公衆に伝える際には、自己の名前を表示するか、表示するとしたら、実名にするか、変名にするか、変名の種類をどれにするかなどを自由に決めることができる権利のことです。

同一性保持権は、A-18のとおりです。

Q-20 最初に原稿を依頼したライターと揉めて降板してもらいましたが、ギャラは支払ったので原稿は残りました。別のライターを使ってこの原稿を活用したり、改訂したり、一部引用したりする場合には何に注意すればよいでしょうか。
A-20 元のライターから著作物の権利を譲り受けているかどうかが問題です。

まず注意しなければならないのは、ギャラの支払いが終わっているとはいえ、必ずしもその著作物の権利を譲り受けているわけではないということです。もともと、ライターから原稿について権利を譲渡してもらう契約であったのか、原稿を使用できる許諾を得ていただけなのかを見極めなければなりません。

次に、降板にもかかわらず、依頼した原稿を利用できるとすれば、それは、元の契約に基づく複製許諾等の効力が生きているということですが、しかし、それは勝手に改訂することは元のものを変更するに等しいので、A-18のとおり、同一性保持権に違反します。

また、逆に一部だけを利用するのも、同一性保持権に反しますが、しかし、それが文字通り引用に該当すれば、そのような一部の利用は許されます。

Part8.著作権以外で、社史制作の際に問題となる権利とは
Q-21 自社の昔の広告用ポスターを使うことは、誰の許可も要りませんか?
A-21 許可の要る場合と、不要の場合があります。

すなわち、そのポスター(著作物であることを前提とします)の制作については、デザイン事務所等、制作者に著作権が生じます。したがって、この権利を御社に移転していなければ、御社は、独占的な使用許諾を受けていただけなので、その広告掲出期間後は、その著作物を使用できないということになります。実際実務的にも、広告物の著作権は、制作者の手元にとどまり、許諾にもとづいて利用しているだけ、と扱われています。

ただ、本件のように、広告に再利用するのではなく、会社の活動紹介のために利用する場合には、むしろ広告目的による利用とともに著作権者が許諾していた、と解する余地があります。これは、著作権固有の問題というよりは、著作権に関する契約の意思解釈の問題です。

とはいえ、とかく契約締結の意思が何であったかは、争いの元となります。したがって、このような紛争を避けるには、簡単でも良いので、「本件広告ポスターの複製利用許諾には、貴社の社史、宣伝活動の記録、その他広報目的で使用することを含む」という一札を取るか、契約書の中に盛り込むことが無用な紛争を生じない対策です。

Q-22 社史に写真を使うときに、特に気をつけることはありますか?
A-22 著作権以外に、プライバシー権や、肖像権にも気をつけてください。

写真著作物を利用する権利があるかどうかを判断することが不可欠なのは、これまで述べてきた他のケースと同じです。その場合、その写真が会社の委託にもとづくものであるとき、それを社史に使用しうるかどうかは、Q21と同じ意思解釈の問題となります。

言うまでもなく、会社の従業員が会社の発意に基づいて、職務上撮影した写真は会社自身が著作権者と言えます。

しかし、社員が撮影した場合と言えども、慰安旅行などで社員が個人的に撮影した写真が上記のような職務上の著作物にあたらないことには注意しなければなりません。

のみならず、写真の場合には、著作権以外にも、プライバシー権や、肖像権の問題を考えなければなりません。創業者の写真の利用はともかく、その家族の写真が当然に利用可能かどうかは、撮影の状況、撮影目的など諸般の事情によって、被写体となっている人の意思に反しないか、意思に反しても使用する公益性があるかなどケースごとに判断しなければなりませんし、場合によっては、家族と創業者の現在の関係についても配慮せざるを得ません。

Part9.映像を再利用する時の注意点とは
Q-23 自社のかつてのTVコマーシャルの一部を使うためにはどうすれば良いですか?
A-23 最近よくある問題ですが、結論は諸般の事情によって異なります。

CM用素材には、多種あり、広い意味で社歌も含むとすれば、社歌の制作依頼の趣旨は、会社が存続する限り利用することを前提に依頼したというのが通常でしょうし、季節キャンペーン用のものであれば、これと異なる解釈が可能でしょう。

要は、著作物としてのCMの制作依頼は当然に著作権譲渡を意味するか、意味しないとしてこれを許諾と見るとき、許諾の期間はいつまでかという問題です。

前者における著作物の創作者と依頼者との関係の原則は、特段の事情がない限り、譲渡にはならないということです。高い報酬を払っていることは、その事情のひとつではありますが、決定的な意味を持つものではありません。

こうした考えは、たとえ社歌といえども、当該会社以外に利用価値がないわけではなく、著作者自身が自己の作品全集をレコードにするときなどに利用する余地がある以上、容易に著作権が移転したと考えることはできないのです。前記の例で言えば、社歌は、非独占的に著作権存続期間中利用できる権利が与えられたに過ぎないと解する余地があります。

つまりこうした取り決めを明示する書面がない場合に、裁判所がどうするかといえば、諸般の事情から当事者の意思を合理的に解釈するということになります。

コマーシャルの使用期間にワンクールだけの合意と認められる事情があるか、あるいは、社史などへの利用は、許諾されていると見てよいのか、当事者の意思や、取引の際の提案や交渉経緯、広告作品に関する商習慣その他を総合的に考慮して決めることになります。

その意味で、簡単でも良いので利用の意思を確認する書面を取り交わすことが重要なのです。

Q-24 社史に附録でDVDをつける場合に、音楽や動画の使用で特に注意することがありますか?
A-24 権利者との間の権利処理を確実に行っておくということです。

そのためには、音楽の場合には、作詞家、作曲家、実演家、場合によってはレコード製作者が権利主体となります。後二者は、著作権ではなく、著作隣接権です。レコード製作者とは、レコード会社のことではなく、レコードのいわゆる原盤の権利を持っている会社のことだということに注意してください。

また、動画は法的には映画ですので、著作者に着目するだけでは足りず、製作者に着目することが必要です。というのは、映画は、完成とともに、権利が映画の著作者から製作者に自動的に移転してしまうからです。著作者は、通常は監督さんやカメラマンですが、製作者は映画製作を発意し、それに要する多数のスタッフと資金を集め、脚本等の素材を決定し、リスク負担をしている者ということになります。

Part10.プライバシー権やパブリシティ権とはどんな権利ですか
Q-25 プライバシー権とはどのような権利ですか?
A-25 一般に人が秘密にしておきたいと思われる性質の事柄につき、他人によってみだりにそれを公開されない権利です。

事柄の性質から、公にして良い事柄かどうかはたいてい判断がつきます。しかし、そのような事柄であっても、場合によっては公開が許されることがあります。たとえば、企業トップの私事は、プライバシー権の保護を求められない場合もあります。このあたりが判断の難しいところです。

Q-26 パブリシティ権とはどのような権利ですか?
A-26 氏名や肖像のような個人を特定する情報を、個人の意思に反して商業的に利用されない権利です。

たとえば、広告に有名人の肖像や推奨の言葉を利用するときなどに働きます。

社史でこのようなことが行われることはあまりないでしょうが、会社の過去の広告を回顧するときにタレントさんの肖像を用いることなどがパブリシティ的利用といえるか、という問題は生じます。結論的には、回顧の限度で許されますが、記事の中での肖像の用い方などには注意を要するでしょう。

Q-27 ほかにも著作権以外で、社史制作の際に問題となる法律上の権利はありますか?
A-27 たくさんあります。

その一部の典型的なものを、第三者の権利と会社自身の権利とに分けて意識しておくと整理しやすいでしょう。

まず第三者の権利ですが、他者の名誉や信用を毀損する表現には気をつけなければなりません。名誉とは、人に対する社会の評価のこと、信用とは支払い能力等のことです。たとえば、ライバル企業との競争にせり勝った事実を書く際に、「筆が走る」ことに気をつける必要があります。

ここに言う他者には、ライバル会社のこともあれば、元役員や元社員の場合もあります。ときには、現役も含みますが、そういうケースは稀でしょう。 この点はたとえば、不祥事について明らかにし、それを反省した経緯などを紹介する際に注意を要します。もっとも、その記載によって、他者の社会的評価を下げるからといって、常に名誉毀損が成立するわけではありません。それが公益目的によるものであるとか、公共の利害に関わるとかの事実によっては、違法性がないとされることがあるからです。

会社自身のことに関しては、会社の重要な営業秘密等を開示してしまう場合には、担当者は会社との関係で責任を問われる可能性があります。

■虎ノ門総合法律事務所・北村行夫 プロフィール
1945年生まれ。1968年早稲田大学政経学部卒業、1974年司法試験合格、1977年東京弁護士会登録。1980年に虎ノ門総合法律事務所所長に就任、現在に至る。日本知的財産仲裁センター仲裁委員・調停委員/著作権法学会会員/国際著作権法学会員/著作権情報センター会員/日本ユニ著作権センター相談員/東京弁護士会人権擁護委員会(報道と人権部会元部会長)
連絡先:虎ノ門総合法律事務所 http://www.translan.com/